
麦。人間の食生活に欠かせない存在のその植物は、寒い冬の最中に芽吹く。降霜に、降雪に耐え、大地に根を張る。何度も踏まれ、倒されながら、それでもたくましく、真っ直ぐに天に伸びていく。平塚の新しいグルメとして生まれたカオリ麺もまた、麦のように―。
2006年、「B級グルメでまちおこし」をテーマに、平塚市料理飲食業組合連合会が2年をかけ開発した新グルメ、それが湘南ひらつかカオリ麺だ。今年、平塚市が地域の食品加工品や工芸品にお墨付きを与える「湘南ひらつか名産品」の5年に1度の見直しが行われ、名産品の推奨を受けるべくカオリ麺も選定にエントリーした。
名産品に選ばれ、定着すれば販売元が潤うというビジネスとしての側面もある名産品認定は、当然、企業によるエントリーが多い。そんな中カオリ麺は、実際にグルメとして販売する同連合会に加え、麦を作る株式会社フリーデンファーム、製粉する社会福祉法人進和学園、製麺する佐久間製麺株式会社の4者による共同提案商品。地域の、地域による、地域の為の商品・カオリ麺は、同連合会会長・水嶋一耀さん曰く、「社会性という大義をもった」商品だ。
このカオリ麺の原料となる麦。地産地消をテーマにする彼らは4年前、その為の小麦の作付けを開始した。土屋や南金目など5反程の土地に湘南カオリ麦を作付けし、自分たちの手で育てている。冬の寒さが厳しかった今年、降霜により麦の根が土ごと浮いてしまうため、作付け開始から「初めての」麦踏みが行われた。麦踏みとは麦が生育している畝を、平らに押さえるように、文字通り麦を「踏む」。他の植物には馴染みがないが、麦はストレスを与える事で植物ホルモンが作用し、茎が太く、強く育つといわれている。古くから行われている麦踏みは、生産者の智恵であり、一つの文化でもある。
当日は各団体から30人を超える人が集まり、麦を踏みしめた。踏むと確かに土が盛り上がっているのが分かる。ぐっと踏み込むとかなりの“踏みしろ”があり、結構な労働だ。それでも真っ直ぐにたくましく伸びる麦を想い、黙々と踏んでいく。フリーデンファーム代表取締役・前田隼彦さんは「ローラーでやれば1人でも簡単に終わるけどね。でも昔の人は家族総出でこうやっていたわけでしょ。踏む事で愛着が持てるならそれは一つの方法だよね」という。
地産地消という今やありふれた言葉も彼らの口から出ることでその重みを増す。カオリ麺を世に発信する意義、責任も彼らは分かっている。だからこそ、真っ直ぐ、目指す場所へ進んでいく。彼らが原料とする麦が、彼らの姿に重なる。麦踏みも終わる頃、誰かが言った。「こうやって実際に麦踏みまでして、これでもう一粒の麦も無駄に出来んなぁ」


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真っ直ぐに、麦のように「湘南カオリ麦」で初の麦踏み
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