
「知は力なり」との言葉もあるが、時に知識は武器や盾として、我が身を守るツールとなる。とりわけ税金や社会保障、労務など様々な制度に守られ、縛られている現代で、社会生活を送るにあたり「知らなかった」では済まされないこともある。それら世の仕組みを知らぬまま学校卒業後に初めて身を置く社会がいわゆる「ブラック企業」であったりすると、知識が無かったばかりに追い詰められ、深刻な例では文字通り「命取り」となる場合もある。儚く消えてしまう前に、1人でも多くの若者を救いたい──。そんな想いを持った平塚市に住む1人の「元総務部」の主婦により考案され、先々月に商品化されたのが『ライフ・リテラシーゲーム』だ。仲間とわいわい楽しみながら、社会生活に必要な知識を学ぶことができる双六形式のボードゲームである。
遊び方は一般的な双六と同様、各プレイヤー(4人~5人)はサイコロを振り、「SNSでバイトテロ」「パワハラでうつ病」といった現代用語も登場する世相を映したボード上で駒を進め、ゴールを目指す。学生時代のアルバイトから就職、結婚など、人生のイベントを通過していく中で「年金」「健康保険」「労務」「所得税、住民税」といった社会の制度に触れ、疑似体験することで世の仕組みを自然と学べる教材となっているが、まず気になるのは「誰を対象としたゲームなのか」という点である。
作ったのは1人のお母さん
「今回は『入門編』ですので、一番は高校生に使ってもらいたい。高校を卒業して就職する子どもたちを守りたい」と話すのは、開発者の加藤千晃さん。加藤さんは以前、市内企業の総務部で約8年働いていた経験があり、そこでの体験が基になって今回ゲームの開発に至ったという。「まずは我々を取り巻く様々な制度の複雑さに驚いたのですが、さらに、多くの人たちが『知らない』ということに危機感を覚えました」
では複雑な社会の仕組みというのは、どう学ぶのか。社会に出る前に、どこかで教えてもらえるのか。現実問題として、そういった機会に恵まれることは、まず無いに等しい。「私も子どもがいますが、子どもたちは『何も知らない』ということすら知らないんです。そんな状態で社会に出て良いのか、という疑問を持ちました」
「労務関係であったり、年末調整や扶養のこと。健康保険の仕組みなど、知識を持たないがために追い詰められ、自ら命を絶つ不幸な事件なども耳にしました。そこで、こういった教材があれば『命を救えるかもしれない』と気付き、『作ろう』と決意したのです」と、開発の意図を語る。
開発、そして完成へ
何としても作るぞ、と強い意志を持って教材開発に取り組んだ。そして企画書を作り、製作してもらえそうな企業に持ち込んだ。だがそれは採用されず、うまくいかなかった。そして自分で作りはじめ、原型ができた頃に、平塚市主催の事業で、市から奨励金交付や事業拡大へ向けた支援などが受けられる「フレッシュビジネス認定コンペティション」の存在を知り、応募した。結果、認定されたことで、順調に製作を進めていくことができた。高校生・大学生にモニターとなってもらったり、公民の教職員の声を取り入れたり、改良を重ねた。そして今年6月、記念すべき第1弾の入門編が完成した。
こだわった点は、いくつかある。そもそも形態を流行りの「携帯アプリ」ではなく、アナログな「ボードゲーム」としたのは「1人で学ぶのではなく、集団でわいわい楽しみながら学んでほしいから」。また、駒は1つ1つ木工職人の手作り。ボードは極力質の良い素材を使い、綺麗な日本の四季を取り入れるなど、デザインにも力を入れたという。価格は1つ25,000円(税抜)と比較的高価だが、丁寧に作ったその理由は、「命に関わる教材だから」
「一番の願いは、それぞれ若い人たちに考えてもらうこと。色々な制度の側面、良い所も悪い所も全て提示することで考えてもらう。そして当事者意識を持って選挙に行き、自分たちで作り直してほしい。その先に良い制度が作れると思います。それが最終的な目標です」。平塚の1人の母から生まれた、我が身を守る命の教材。問い合わせはライフ・リテラシー☎︎23-0018(月~金、9時〜18時)へ。

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