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THE ATHLETE ザ・アスリート

THE ATHLETE(ザ・アスリート)―あなたの話を聞かせてください―


肢体不自由を経て、世界を広げる男

車いすバスケットボール選手
神奈川ヴァンガーズ キャプテン 前田 柊さん(29歳)


ある日、足が動かなくなった


2018年、就職活動を控えた大学3年の夏。家族旅行で訪れたハワイでのサーフィン中に、前田柊さんの人生は一変した。

サーフボードで立ち上がろうと背中を反らせた瞬間、鋭い痛みが走った。「ぎっくり腰かな」と軽く思っていたが、腰の激しい痛みや痺れが取れず、やがて足の感覚が徐々に失われ、ホテルで倒れた。そして現地の病院に救急搬送される。

数時間に及ぶ検査の末、下された診断は脊髄梗塞。おへそあたりから下が完全麻痺となった。

恐怖の中で、前を向く、喜びにつなぐ

元には戻らないという現実を突きつけられた翌日、一気に多くの感情があふれ出した。

「昨日まで感じられたことが、今日は感じない。どこまで感覚がなくなるのだろう──その恐怖感はものすごかった」

挫折や悲しさというより、現実を理解できないという恐怖だったという。それでも、持ち前のポジティブさで「とりあえず、目の前のことを頑張ってみよう」と気持ちを切り替えた。「おかしな話だけれども…」と前置きし、「2-3日たつとある種の喜びも見いだしました」という。失ったものは大きく、ハワイで1か月、日本で7か月のリハビリは、昨日と違う生活と体の感覚を一から覚え直す日々だったそう。それでも、「できることが、だんだん増えていくことに喜びを感じました」と前田さんの毎日は輝きはじめた。

海外での受傷は、自分にとってメリットだったのかもしれない

「怪我から入ったからか、障がいを負ったという意識が全然なかった」そして、「海外、特にホノルルは明るい人が多く、一つ一つ何かできるたびに看護師さんたちが『イエーイ』と盛り上げ、毎日応援してくれました」。だからこそ、この状況に落ち込む暇はなかったという。「一緒にいて支えてくれる人がたくさんいる」

受傷して、きづいたこと

「本当に人を大事にしなければならない。同時に、人を大事にしてきてよかった」

「自分一人では、どうにもならないことばかりだった。人に助けられて生きている」

肢体不自由の身となり、前田さんはつくづくそう感じたそうだ。大切に築いた人間関係は、困難に直面したとき必ず支えになると。

「もう一つ、伝えたいことがあります。それは、やりたいと思ったことは、本当にやったほうがいいということです。」突然、日常が変わってしまうことを経験した当事者だからこそのリアルな言葉だ。

障がいは「違いの一つ」――世界を変えたい

前田さんの中で、「障がい」という言葉の意味も変わった。「障がいは、誰にでも起こりうるし、特別なものではなくて、違いの一つだと理解しています」。

海外に出れば、「そのタイヤかっこいいね」と車いすに自然に声をかけられる。「多くの人がそれぞれ個性も見た目も異なるように、障がいとは人それぞれの違いでしかない。そんな世界にしていきたい」。

しかし日本では、障がいに対してまだ距離があり、特別・特異といった認知となりがちだ。

「どう関わればいいか分からないだけで、関わりを持つことで世界が広がる」

関わらなければ見えない世界かもしれないが、見えたときには、多くの感情や多くつながりも生まれると実感した。

車いすバスケットとの出会いで、さらに広がった視野

奥さまの「バスケかっこいいよ、やってみたら?」という一言で始めた車いすバスケット。前田さんが所属する神奈川VANGUARDS(ヴァンガーズ)は、1973年創立の神奈川県を拠点とするチームで、日本代表候補選手を多数擁し天皇杯3連覇を誇る国内トップクラスの強豪だ。迫力ある競技に、スポーツ好きな前田さんはすぐに熱中した。

競技を通じて気づいたのは、同じ「車いす」でも、その背景はまったく異なるということ。先天性の方は幼い頃から車いすとともに生き、いじめや学校生活での苦労を重ねてきた。「そんなにも…そんなことが…」と感じることも多かったという。

「欠損がある選手は周りの視線が気になるという話も聞き、自分には想像できないような苦しみがあったんだろうなと感じました」。

今の自分は、障がいのある側もない側も知っている。だからこそ、見えるものがある。

障がいという隔たりをなくしたい

「待っているだけでは変わらないと思うんです」。困ったときは発信していい、自分を出していい。当事者も声を上げないと誤解も生まれたり、不満となってしまう。

外に出ていくことで新たな関係が生まれ、理解が深まる。自分から動くことで、共感が生まれる。「外に出ていいんだよ、と伝えたいです」

── 取材を終えて

先天的なこと、事故、病気、老い、その背景は違っても、誰もがある日、大きな変化の中に立つ可能性がある。そのとき、私たちは違いを受け止められているだろうか。

見える世界だけにいたら、変化を恐怖に感じるかもしれない。しかしその恐怖の外には、励まされるもの、背中を押すもの、違いの魅力、そして真実があるかもしれない。

前田柊さんは、これからも多くの人々に、勇気の後押しと優しい未来を伝えてくれるだろう。 

湘南ジャーナル社 編集部

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