七夕に願いを託すように、
企業にもまた、
次の世代へ受け継ぎたい想いがある。
七夕をきっかけに始まる企業の事業継承ストーリー Vol.01
DAD & SON
父から受け取ったボール。
哲学は、受け継がれる。
株式会社三興
父から子へ。受け継がれる仕事の裏側にある事業承継のドラマや、未来への願いを聞いてみたい。そんな想いから、七夕をきっかけにこの企画を立ち上げた。先駆者の強い想いと、後継者への熱い期待が交錯するドラマチックな物語を予想していたのだが、取材を終えて、いい意味で裏切られることになった。そこで見えてきたものは、「願い」ではなく、「哲学」だった。 株式会社三興 吉川正行会長と、二代目である吉川裕之社長。それぞれに話を伺い、最後に揃って写真を撮影させていただいた。その時間の中で浮かび上がってきたのは、親子の仲睦まじさでも、厳しい師弟関係の美談でもない。もっと静かで、もっと本質的な何かだった。
いい仕事をしないと残れないよ
三興の創業は1982年、正行会長が33歳の時である。 会社を立ち上げた当時、大きな夢や希望があったのかと尋ねると、「もう忘れちゃったな」と笑顔ではぐらかされた。しかし、その後に続いた言葉が深く心に残った。
自身の中に、ずっと変わらないモットーがあるという。
それは創業時から会長が一貫して掲げ続けている理念でもある。
「いい仕事をしないと残れない」

吉川正行会長
当時会長は、企業で役員として精力的に働いていたが、あえて自身の会社を興す道を選んだ。それは、このモットーを妥協なく実行するためだったのかもしれない。
農業用、業務用、家庭用。 この3つの事業を柱に据えながら、一つひとつの現場に実直に向き合ってきた。大学の農学部や植物園、花き農家など、専門性の高い設備工事も数多く手掛けている。近隣エリアに留まらず、遠方の現場に赴くことも少なくない。誰もが簡単に真似できる仕事ではないのだ。しかし、会長はそれを自慢げに語ることはなく、「どうしてもやってほしいと言われるんだよな」と遠慮深く話した。それは確かな技術の証明であり、それ以上に顧客との深い信頼の証でもある。
だからこそ、三興は数多くの公共事業も任されてきた。地域インフラを支える現場で積み重ねてきた丁寧な仕事は高く評価され、これまでに「優良建設工事」の表彰も何回も受けている。目に見えるその実績は、会長の言う「いい仕事」が確かな信頼として形になった証拠だろう。
取材の中で何度も感じたのは、会長の語る「いい仕事」が、単なる技術論に留まらないということだ。 「見えないところを丁寧に仕上げる。長持ちする仕事をする。困っている人がいれば、まずは話を聞く」 顧客であるかどうかに関わらず、人として誠実に向き合うこと。そして、自分自身の仕事にも嘘をつかないこと。その積み重ねが確かな信頼となり、40年以上の重みのある時間を紡いできたのだろう。 また、3つの柱を立てたことは戦略的な意味があるという。仕事は常に順風満帆とはいかない。だからこそ3本の矢なのである。時代や景気の波に応じて互いを補い合えるバランスが必要だと思ったのだ。「忘れちゃったよ」会長は笑ったが、振り返れば、その夢はきっと今も会社の中に残っている。理念を持ち、先を見据え、人にも地域にも必要とされる会社をつくること。それこそが会長の描いていた未来だったのかもしれない。そして、会長の細やかな配慮と気配りは、今も三興の温かみのある企業文化として深く根づいている。
父と同じことをしても、父には勝てない
裕之社長が社長に就任して、今年で12年。 もともとは、家業を継ぐつもりは全くなかったという。父と同じく大の野球好き、将来は野球選手になることを夢見ていた少年は、やがてスポーツに関わる仕事に就きたいと考えるようになった。しかし、大学卒業前、スポーツフィットネスクラブでアルバイトをしていた際に、母親からの「あなた、これからどうするの?」という言葉をきっかけに、父の会社の存在を意識し始める。その後、設備機器の大手商社に就職し、外から父の会社を眺め、外の世界で修行を積んだのちに三興へと入社した。
しかし、そこで待っていたのは、想像以上に厳しいプロの仕事だった。 夜間であっても関係なく呼び出しがかかる農業設備や暖房機の故障は、一刻も早い修理を行われなければ生産者の死活問題となるリスクがあるため、24時間体制での対応が求められる。
決して妥協を許さない父の仕事への姿勢。今だからこそ笑って話せるが、その厳しさに「辞めたい」と何度も頭をよぎったという。
そして父は、息子の前で決して褒めることをしなかった。 厳しさの渦中で、まだ一社員であった裕之社長はあることに気づく。「父と同じことをしても、父には勝てない」 「会社に新しい味付けをして、自分だけのポジションを作らなきゃいけない」 その言葉には、野球を通じて培った精神、父の背中、数々の葛藤を乗り越えてきた自負が滲んでおり、非常に印象的だった。
守りながら、進化させる。感謝のキャッチボール
「事業継承」というと、どうしても会社という器を受け継ぐことばかりに目が向きがちだが、本当に難しいのはその「先」にある。伝統を受け継ぎながらも、自分自身の役割を見出し、変化していく次の時代へとつないでいくことだ。
父に負けたくないという悔しさを原動力に、「40歳までに社長になれなかったら辞めよう。そこまではとにかくがむしゃらにやり抜く。資格でも超えてみせる」と心に決めた。そして40歳の時、父と同じ「1級管工事施工管理技士」を取得し、更に「1級建築施工管理技士」の資格を取得。その時、父は、そっと手を差し出した。初めて交わした握手だった。「初めて認められた、と感じた瞬間でした」 そうして、社長の座を引き継いだ。
会長は、息子への継承について多くを語ろうとはしない。「ただ、一生懸命やっていたのは分かっていたから」とだけ述べ、自身の願いや期待を押し付けることはしなかった。
裕之社長にとって、父からの継承とは「守りながら、変えていくこと。否定するのではなく、進化させること」だという。
「変化や新しい価値観を急に押し付けると、それまでの否定になってしまう。ストレスや感情的な摩擦は、組織に何も良い影響を生まない」と言い切る。時には少しの手間やコストがかかったとしても、新旧のバランスを共存させることが大切だと考える。最終的には、時代に合わせた変化は不可欠だからだ。

吉川裕之社長
「父には本当に感謝している。だからこそ、その感謝をキャッチボールして次の世代へつないでいきたい」
裕之社長は、就任以来、事業だけでなく組織づくりと社員が働きやすい環境づくりに力を注いできた。それは、会長がこれまで見せてくれた気配りや、社員への手厚い配慮の姿勢を間近で見てきたからに他ならない。 しかし、そこには二代目ならではの視点による「進化」もある。スタッフが真に喜ぶことは何か。労働環境の改善や、その家族への配慮。率先して「イクボス宣言」や「ホワイト企業認定」などを取得し、今の時代における企業評価のあり方を会長にも示してきた。
受け継がれるのは「会社」ではなく「哲学」
会長が語る「いい仕事」と、社長が語る「キャッチボール」。 二人が使う言葉は違う。けれど、その根底にある思想は驚くほどよく似ている。
お客様とも、社員とも、地域ともキャッチボールをする。投げられたボールをしっかりと受け止め、誠実なボールを投げ返していく。その愚直なまでの繰り返しのなかにしか、信頼は生まれない。
会社を継続すること。人を育てること。伝統を受け継ぐこと。時代の変化に適応すること。そのどれもが簡単ではない。けれど、三興の父と子を見ていると、その難題に対する一つの答えが見えるような気がした。
親子だから上手くいくわけではない。ただ仲が良いから続くわけでもない。
そこには、互いを信じることと、相手の考えを受け止める余白があった。そして、変えてはいけないものと、変えるべきものを見極める覚悟があった。
事業継承とは、単に会社を譲渡することではない。「哲学を渡すこと」なのだ。 言葉だけで受け継がれるものではない。日々の仕事の姿勢、お客様への向き合い方、社員との会話、地域との関わりの中にこそ、その哲学は宿る。
取材の最後、お二人に並んでいただき写真を撮影した。特別な言葉を交わすわけではない。肩を組むわけでもない。
それでも、その佇まいからは長い時間をかけて築かれてきた信頼が伝わってきた。
それぞれに自立した、父と子。
決して同じ形ではない。けれど、その間には確かな信頼が流れている。 株式会社三興が、地域から必要とされ続けてきた理由は、きっと、この写真の二人の佇まいの中に現れている。

左:1948年生まれ 代表取締役会長 吉川正行氏
喫茶店でコーヒーを飲む習慣から、コーヒーにこだわり、スタッフやお客様に美味しいコーヒーを自ら淹れる。豆にもこだわり、同級生が営む喫茶店から取り寄せている。趣味は野球とゴルフ。
右:1974年生まれ 代表取締役社長 吉川裕之氏
「楽しい暮らしの応援団を目指す」を理念に掲げ、人を笑顔にすることを大切にしている。趣味は野球と若い選手の成長・活躍を応援・協賛している。そして一人旅。

1982年9月創業。社名は、農業用・業務用・家庭用の3つの設備事業を興す、という由来にちなむ。現在は公共事業やアグリ事業、一般家庭の建築リフォームに至る、幅広い設備工事事業を展開している。地域貢献活動にも力を注ぎ、地元アスリートの応援や、少年野球の指導や大会支援・協賛、特別な設備工事を必須とする地域の飲食店への応援活動も行なう。
設備に関するお困りごとは、三興へ、ぜひご相談ください。
住所:神奈川県平塚市平塚2丁目1番11号
TEL:0463-35-3535
https://www.sanko-ltd.jp
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