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源平とその周辺 第2部:第36回 重忠と行平
梶原景時が頼朝に告げる。畠山重忠に謀叛の疑いあり――。「重忠は自分が犯したわけでもない罪のために召し籠められて不満を持ち、武蔵国の菅谷館で反逆を企てているそうです」。これを受けて、小山朝政(おやまともまさ)や小山(結城)朝光、下河辺行平などが頼朝のもとに呼ばれて意見を聞かれた。使者を遣わして重忠に事情を聴くべきか、直ちに討手を遣わすべきか。朝光は言った。「重忠は正直者で道理をわきまえた人間ですから、謀叛など企むはずがありません。きっと何かの間違いでしょうから、使者を遣わしてその意をお尋ねください」。他の者達も同じ意見だった。頼朝は下河辺行平に命じた。「重忠とは弓馬の友であろう。彼に真意を問うて、異心がないと分かれば重忠を連れてくるように」。行平は、武蔵国へ向かった。
行平に事情を説明されて、重忠は憤った。「どうして今更これまでの勲功を無にして謀叛人となれるのか。お召しがあると言って、私を騙して殺すためにあなたが派遣されたのだろう。恥ずべきことだ」。重忠は腰の刀で自害しようとした。行平は止め
る。「あなたはご自分を正直者だという。私だってまた、あなたと同じように誠意を持っている。陥れるようなことなどしない。友である私を使者として寄越したのは、あなたを連れてこさせようとする頼朝様のお計らいであろう」。重忠は納得して、行平と共に鎌倉へ向かうことにした。
謀反の心など持ってはいない、そう梶原景時を通じて陳述する重忠。景時はそれならば起請文を書くように、と言う。重忠は答える。「自分のような勇士が人々の資財を強奪しているなどという噂を立てられるのであれば恥辱だが、反逆を企てていると
いう噂であればかえって面目である。しかし頼朝様を主君と仰いでからは二心などない。私は、思うことと口に出すことに違いはない人間だ。言葉を疑われて起請文を書かされるというのは、正道を犯す者に対する方法なのだから受け入れられない。私に
偽りのないことは頼朝様が良くご存知のはずだ。そうお伝えいただきたい」。頼朝はこの件についてはもう触れずに、重忠と行平と雑談などをした。行平には剣が与えられた。無事に重忠を鎌倉へと伴ってきた褒美として。
【写真】畠山重忠が住んだとされる菅谷館跡(埼玉県比企郡嵐山町大字菅谷)に建つ『畠山重忠公像』
写真提供=埼玉県立嵐山史跡の博物館
著者:新村 衣里子
■プロフィール
お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。元平塚市市民アナウンサー。平成16年ふるさと歴史シンポジウム「虎女と曽我兄弟」でコーディネーターをつとめる。『大磯町史11別編ダイジェスト版おおいその歴史』では中世の一部を担当。成蹊大学非常勤講師。
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