わが街のお医者さん 健康ファイル Vol. 03
知っておきたいワタシのカラダ
健康への第一歩は、病気について正しい知識を持つこと。地域医療の中核をなす平塚共済病院が、身近な病気を予防したり重症化を防いだりするために必要な情報をお届けします。
外科統括部長/乳腺・甲状腺センター長
谷 和行 先生
日本乳腺学会乳腺専門医・指導医/日本外科学会専門医/日本乳癌検診学会評議員 医学博士
乳がんになる可能性は誰にでもある
命を守るブレスト・アウェアネスとは
10月はピンクリボン月間!
共済病院では10月1日から8日まで、外来棟のライトアップ(18時〜21時)を行ないます。乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを知る機会にしましょう。
9人に1人が乳がんになる時代
乳がんは日本人女性がもっともかかりやすいがんです。その割合は9人に1人と、誰がなっても不思議はありません。一方で、早期の乳がんの5年相対生存率はほぼ100%であり、早く見つかればかなりの確率で治る病気でもあります。早期発見のため、かかりやすくなる40歳以上の方は定期的に乳がん検診を受けることが大切です。
残念なことに、わが国の乳がん検診の受診率は4割に届きません。乳がんにかかる人がますます増えている今、予後の良いがんにもかかわらず、乳がんで命を落とす人も、依然増え続けています。このような国は、先進国では日本だけです。乳がん死が減少に転じた欧米諸国の検診率は7〜8割ですから、命を救う上で乳がん検診がいかに有効か、お分かりいただけると思います。
皆さんに知っていただきたい
「ブレスト・アウェアネス」という言葉
では、2年に1度の検診を受けていれば万全か、40歳未満の方は何もしなくて良いかというと、そうではありません。日頃から自分の乳房を大切にして、自分で責任を持つ心構えをしていただきたいのです。
この考え方は「ブレスト・アウェアネス(Breast Awareness)」と呼ばれています。「自分の乳房を慈しむ」と訳すとピッタリです。具体的には①自分の乳房を知る②乳房を見て感じる③乳房の変化に気づく④変化を感じたら速やかに医療機関にかかる⑤40歳から乳がん検診を受けるという5つの行動を指します。
月に1度は、お風呂で体を洗うときに丁寧に触れて、しこりができていないか確認してください。変化を感じたら、すぐ医師に相談してください。あなた自身の命を救い、大切な人たちを悲しませないために、少しずつでも取り組めるといいですね。
患者さんに寄り添うピアサポーター
平塚共済病院には乳がん情報提供室があり、乳がん体験者コーディネーターが患者さんやご家族をサポートしています。専任の職員がピアサポートを行なう病院は、全国的にもきわめてまれです。
ピアサポートとは、同じ病気を経験した人が患者さんを支えるしくみのこと。当院のピアサポーターは、乳がんの治療を受けながらコーディネーター養成講座を受講し資格を取得した経緯があり、同じ病気を経験した女性として、患者さんと対等の立場でお話を伺っています。導入を決めた2010年当時、職員としてピアサポーターを迎えることは前例のない試みでしたが、関係者の熱意と工夫によって体制を整え、運営を続けられています。
患者さんを支える活動の一環として
乳房を失うことは、大変な精神的苦痛を伴います。そのため、乳がんの治療では整容性も大切な要素です。当院では、患者さんのおよそ6割に、乳房温存療法を行なっています。また、乳房全切除の場合でも希望すれば乳房再建術(形成外科に引き継ぎ)を行ないます。ただ、整容性より根治性を重視して、再建しない選択をする患者さんも多くいらっしゃいます。
そんな患者さんのお悩みのひとつに、温泉に入りづらいというものがあります。術後に人目が気になって、足が遠のいてしまうというのは、無理もないことでしょう。
そこで当院は、湯河原温泉の「女将の会」にご協力いただき、乳がんに優しい温泉をつくる取り組みを行なってきました。手術を受けた方向けの入浴着をご用意いただいたり、ピンクリボンにご協力いただいている宿であると知らせるポスターを掲示いただいたりして、乳がんの方もそうでない方も気兼ねなく利用できるようにするのです。また、現在はコロナ禍の影響で見合わせていますが、年に1度、貸し切りで心置きなく温泉を楽しんでいただく機会を設けたりもしています。
乳がんに優しい社会へ
現在、ピンクリボンの温泉宿は日本中に広がっています。乳がんへの関心が高まり、患者さんに優しい社会になってきたと感じます。繰り返しになりますが、誰でも乳がんになる可能性があります。いたずらに恐れる必要はありませんが、「なるかもしれない」という気持ちは持っていただきたい。ご自分の乳房を、どうぞ慈しんでください。
知っておきたい
乳がん治療の今
乳がんの診断
乳がんの診断は、マンモグラフィ検査、エコー検査、病理学的検査を組み合わせて行ない、必要に応じてMRIやCT、シンチグラム(核医学検査)を実施します。平塚共済病院では乳房を3Dで見られるトモシンセシスを導入しており、精度の高い検査が可能です。
通常のMMG(2D)【左】トモシンセシス(3D)【右】
通常のMMG(2D)【左】トモシンセシス(3D)【右】
サブタイプに応じた薬物療法
乳がんには、エストロゲンやプロゲステロンという女性ホルモンによって増殖するものや、HER2(ハーツー)というタンパク質が関与するものなど、性質の異なる4つのサブタイプが存在します。これらサブタイプの違いや腫瘍の増殖速度の指標であるKi67の値に応じて、ホルモン療法(内分泌療法)や抗HER2療法、抗がん剤治療という3種類の薬物療法を使い分けることによって、副作用を抑えつつ大きな治療効果を上げられるようになっています。
センチネルリンパ節生検
乳がんは、進行とともに脇の下のリンパ節に転移することが知られています。そのため、乳がんの手術の際には、同時に腋窩リンパ節をすべて取り除く「郭清」が行なわれていました。リンパ郭清を行なうと、腕がむくみやすくなったり肩の動きが制限されたりといった問題が起こりやすくなります。 センチネルリンパ節は、数十個ある腋窩リンパ節の中で乳がん細胞が最初にたどり着くところです。手術中にセンチネルリンパ節生検を行ない、転移がなければリンパ節郭清を省略する手法が普及したことで、多くの患者さんのQOLが向上しました。
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