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ヘッドライン |2022.06.08

人の「生きる」を写す 
平塚出身の写真家「福島あつし」を知っていますか?

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旅する写真家
日本縦断プロジェクトに挑戦 平塚出身の福島あつしさん

地球の裏側にいる人とオンラインで時間を共有できたり、飛行機に乗って数時間で何百キロも離れた土地を 訪ねたりできる現代。人の最も原始的な移動手段・徒歩で日本を旅する写真家がいる。 平塚市出身の福島あつしさんは現在、日本縦断プロジェクト「ZIPANGU〜Exploring for Native Humanity〜」 (ZIPANGU PROJECT)に挑戦し、行く先々で実際に出会った人々を、そこに在る「生きる力」を写し続けている。

写真/福島あつし


 フォトグラファーという仕事は、「商業写真の撮影」と「アート写真の撮影」に大別される。商業写真の撮影とは、雑誌やカタログでの「物撮り」や、ウェディングなどでの「人物撮り」、報道写真など、求められたものを撮影する仕事だ。一方でアート写真は撮影者が自分の作品として写真を撮る。自分のオリジナリティや感性がモノを言うが、その写真に価値が付くかはまた別の話。商業写真の撮影で暮らしを立てつつ、自分の写真の道を追求している人も数多い。

 福島さんは1981年生まれの40歳。県立大磯高校を卒業後、大阪芸術大学に進学。「自分の写真を突き詰めたい」という思いから就職活動はせずにアルバイトをしながら写真を撮る生活を続けてきた。「2004年から10年間、独居高齢者専用のお弁当屋さんの配達員として仕事する傍ら、そこを利用するお年寄りを撮り続けました」。2021年にはこの時の作品をまとめた『ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ』を出版した。「2018年からは農家になり、夏の激しい農業を撮影しました」

過去に日本を旅した時の作品。今回も多くの人との出会いがある。

農業を撮影した作品。大自然との戦いの記録だ。

弁当配達をしてた時の作品。独居高齢者の生活のリアルが写し出される。

 今回の「ZIPANGU PROJECT」は富士フイルムが主催する「GFX Challenge Grant Program 2021」というクリエイターの創作活動サポートを目的とした助成金プログラムを利用したもの。全世界から応募があり、福島さんは上位5人に相当する“Global Grant Award”を受賞。15人の受賞者のうち、日本人は福島さんただ一人だ。

 じつは、2009年、2010年の2回、徒歩での日本縦断を経験している。「樹木を植えながら各地を回る環境活動プロジェクトに参加しました。バックパックを背負って歩くことはとてもしっくりきたんですが、環境活動のほうにのめり込めなくて、旅しながら写真を撮る活動からは少し離れました」。だが、先のコンペの話が舞い込んできた。「日本を歩く時が来たと、直感的に思いました」

“プロの迷子”なんです、僕

 プロジェクトは4月8日に沖縄からスタートした。153日、約5カ月をかけて南から北へ、3000kmを超える道のりを歩み、そこで出会った人やモノを撮る。伝えたいことは「人の生」。「生きることの尊さみたいに大袈裟じゃなくていい。こういう人がいるんだな、でもいいんです」

 風景写真は苦手だという。「どう撮ったらいいのかわからないんですよね(笑)。モノを撮るときも物体そのものでなく、その先にいる人の姿を写したい。旅では誰かが作った道を歩いているわけだし、見える風景は大体人の手が入ったものです。それが沁みるんですよね。路肩に花壇がある。ここを管理する人の『道を華やかにしたい。けどこれから水やりしに行くの、メンドくさいなあ……』とか心の葛藤を勝手に想像してシャッターを切っているんです」

 ツールとして旅を選んだ理由は。「別に自分探しをしているわけではないです。基本的にはインドア派のつもりですが、性質的に不安定さを求める部分があって、多分ずっとこうなんだと思っています」

 若い頃に大きな“冒険”をしても、年を重ねると徐々にそういったものから離れる人は多い。どこかのタイミングで“腰を据える”や“大人になる”という名前の終止符を打つ。「腰を据えることへの憧れはありますが、実際にそうするのは無理。“プロの迷子”なんです、僕(笑)。でも、めちゃくちゃ孤独ですよ。寂しいから人に話しかけるし、人の残り香のようなものを求める。寂しさがなかったら、もっと内省的な作風になると思います。その親近感は写真から感じてもらえると思っています」

 各地で写真を撮るほか、ちょっとしたイベントやラジオ出演などをしながら、歩を進めている。5月末時点では和歌山県付近を移動しており、6月下旬には地元平塚付近を通る予定だ。道程をインスタグラムで発信しながら旅を続け、11月には富士フイルムのギャラリーで写真展を開催する。そこが最終的なプロジェクトの報告の場になる。

「開放感たっぷりのビーチで緊張感を漂わせていた。ギラついた目が見据える先は」

「大好きな色のコスチュームに身を包み、身体を追い込んでコロナに立ち向かっていた」

「青い空と青い海。気持ち良いを素直に表現してくれた二人」

「一体これはどういう仕事なのだろう? 気になったらすぐに声をかけられるのが歩き旅の良さ」

写真を撮り、体験を重ねる

 福島さんはこれまで、アーティストとして大きな評価を得てきたわけではない。ただ表現者として、自分の道を突き進んできたわけだが、じつは福島さんは現在住む大磯に妻子を残して旅に出た。普通に考えれば、理解し難い生き方かもしれない。「妻とは過去に日本縦断した時に出会っているので、もともと僕の活動に対しての想像力はありますし、僕の写真活動と、その表現内容をすごく評価してくれています。将来の話ももちろんしますが、お金や名声は判断基準になっていない。写真を撮り、体験を重ねる、それそのものを信頼してくれていると思っています。今回も富士フイルムの企画という前提はありますが、コロナ禍など閉塞感がある世の中だからこそ、僕の写真が響くと思って送り出してくれたのかなと」

 とはいえ、家族にかかる負担もある。「今回は支えてもらっていますが、逆のパターンもあり得ます。このスタイルに行き着いたというのもありますが、腰を据えて仕事をして賃金を得るというのは、残念ながら僕にとっての“生きる”ではなかった。妻もそういうタイプなので、ベストな選択をしているとは思います。行く先は見えない、でもそれそのものが楽しみなんだと思います」

 そんな生き方が、世間一般の価値観とは違う自覚もある。「旅路で出会う人の多くは、僕みたいな生き方はしていないですし、本心からすごいことだと思っています。僕は、その力強く生きている人を“記録する係”なのかなって。自由に生きているわけですから、時には羨ましがられることもありますよ。でもそれは『全力で取り組んでいること』に対する羨ましさだと思っています。であれば、僕はそれを全力で成し遂げるだけです」

「『どこまで歩いていくのー?』陽気な声が聞こえてきた。新しい出会いは突然訪れる」

「海賊船の船長に憧れていた。同じ航路を毎日渡る連絡船の船長の瞳に海はどう映るのか?」

「歩き疲れた僕のために、痛い腰をかばいながら、懸命にご飯を用意してくれた」

「薪で火をおこして調理。人は便利も不便も選択できる」

僕は“写真の奴隷”なんです

 既存の価値観の外にいる彼は特別な存在なのだろうか。「僕自身は“凡の凡”です」と福島さん。「だからこそ、僕が撮る写真にはエネルギーが宿っていると思っています。だから多くの人に見てほしい。不思議なもので、僕が“感動した瞬間”を撮っているわけですが、撮影した瞬間に8〜9割は終わっている。あとはそれをふさわしい場所に持っていってあげる。どう届けるかを考える。僕は“写真の奴隷”なんです」

 日本を撮って回るのに、自転車やバイクを使う選択肢もあった。ただ福島さんはそれを選ばなかった。「めちゃくちゃしんどいですけど、歩くのがベスト。歩くことが人との距離も近いですし、人の力強さ、美しさを撮るのに楽したくはなかった。自分の力を尽くして、全力で取り組んでいる感覚があって、今現在の完成系だと思っています」

 旅の先に何を求めているのか尋ねてみた。「人としての五角形みたいなのがあるとして、僕は本当にいびつな五角形だと思いますよ。外から見ると本当に迷子ですが、個人としてはブレていない。歩くことは自分の感覚にフィットしているし、これがライフワークになれば。あと、この活動を知ってもらうことで高校野球やごみ処理場の撮影ができるといいですね。興味のある現場はたくさんあるんです。たくさんの現場を訪ねるために、今の現場でベストを尽くしているんです」

 

 話の中で「ベスト」という言葉を繰り返す福島さん。それは自分に言い聞かせているのではなく、命をかけてプロジェクトに取り組んでいる彼自身の生の実感なのだろう。写真を通して人の生きる力を描き出すとともに、自身もまた自分の生き方を通して、生きる力を発現している。命を使い切る、そんな覚悟すら見える。

 旅は北海道というゴールを踏んでなお続く。生きる限り、まだ見ぬ世界が続く限り。

「山の中での暮らし。仙人のように見えるが、これは社会と懸命に向き合っている姿」

「自分たちが普通に暮らせるのは、こういう仕事のおかげ。細心の注意を払いながらの作業」

「鉄工所での写真。宇宙船を作っているのではと勝手に想像しながらシャッターを切る」

「雨宿りに立ち寄ったカラオケ喫茶。コーヒーと歌声に心身ともに温めてもらった」

 

ZIPANG RPOJECTの足跡

「人が生きることは、力強く美しい」 そんな信念のもと歩みを進める福島さん。 ここまでの旅から、厳選した16枚をご紹介(記事中の写真を含む)。 紙面からも伝わる「生きる力」を感じてほしい。

「わずか50mに満たない浜に、毎日足を運んで掃除している男性。『もう5年は経つかな』」

「人から人へと繋がっていくのが旅の醍醐味。まさかこの後ラップバトルが見られるとは」

「うちに秘めた熱い思いを吐き出す若者たち。叫びたい時は全力で叫べ!」

「淡々とペンキを塗り続ける青年。カメラのレンズを真っ直ぐに見つめる強さがあった」

 

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