一滴にやどる自然の旨み

松田町で新たなお茶の
魅力に出合う。

1977年生まれ。大学卒業後、会社員としてのキャリアを経て、2019年に急逝した父親の跡を継ぎ茶園を継承。現在は、「ひとつぼ園主」プロジェクトを通じて地域活性化に取り組み、茶園再生に尽力している。
地域と人がつながる
新しい農業の形
神奈川県松田町寄の「いしい茶園」は、丹沢山地を水源とする自然豊かな土地に広がる、200年以上の歴史を持つ茶園だ。初代・石井綱右衛門が天保年間に開いたこの土地は、時代を超えて受け継がれ、現在は7代目の石井久和さんがその伝統を守りながら、新たな価値の創出に挑んでいる。
「いしい茶園」がある寄地区は、標高が高く、昼夜の寒暖差が大きい。そのため、香り豊かで味わい深い茶葉の生育に適している。加えて、丹沢の清らかな水と澄んだ空気が、お茶本来の風味を引き立てている。この土地の恵みを生かしながら、石井さんはお茶づくりと地域の未来に向き合う。
茶園を継ぐ決意と再生への思い
2019年、石井さんは急逝した父の跡を継ぎ、7代目園主となった。それまで会社員を経て独立し、別の道を歩んでいた彼にとって、茶園を継ぐことは簡単な決断ではなかった。「当時は“負の遺産„のように感じていた」と語るように、かつて卸売りで順調だった茶園も、時代の流れとともに価格は下落し、後継者不足が深刻化。さらに過疎化も進み、茶園を更地にする案も現実味を帯びていた。
それでも幼少期から親しんできた寄の風景を守りたいという思いが、再生への強い原動力となった。「この風景が好きで、眺めていると心が安らぐんです」。その言葉には、土地への深い愛情と覚悟がにじんでいる。
地域とつながる
「ひとつぼ園主」制度
再生の第一歩として始めたのが「ひとつぼ園主」制度だ。一坪分の茶畑を年会費1万円で所有し、茶摘みや畑の整備に参加しながら、新茶や後熟茶を味わえる。茶園のテラスで自然と触れ合いながら、地域とのつながりを育むこともできる。
現在、この制度には約150人が参加。首都圏はもちろん、京都や長野など遠方からのリピーターも多く、口コミやSNSで広がった輪が、地域との新しい関係性を生み出した。単なる農業体験にとどまらず、参加者は「関係人口」として地域に根を下ろしつつある。石井さんは、「お茶を通じてこの地域の価値に気づいてもらえたらうれしい」と語る。
茶園の魅力を伝える
テラスづくり
もう一つの取り組みが、茶園の一角に設けたテラスだ。石井さんが自ら手がけたこの場所は、飾り気はないが、寄の里山を一望できる絶景スポット。春は桜、秋は紅葉と、四季折々の景色を楽しみながらお茶を味わえる。
SNSに投稿した写真が話題を呼び、多くの来訪者が訪れるようになった。中にはタイからの旅行者もおり、寄地区が持つ可能性を改めて感じるきっかけとなった。「ただの茶園じゃない」と語る来訪者の声が、それを物語っている。
茶園から広がる地域づくり
石井さんは、茶園の再生にとどまらず、地域全体を元気にする取り組みにも力を入れている。「地方の課題は地方だけで解決できません」と語り、都市と地方が支え合うネットワークの重要性を強調する。その一環として構想しているのが「茶園オーナー制度」だ。企業が茶園の一区画を借り、企業名を掲げられる仕組みで、地域貢献と広告効果の両立を図る。企業と地域が連携し、持続可能な形で互いを支える新しい地方創生のモデルとなり得るだろう。
100年先へと続く
風景を目指して
「いしい茶園」の挑戦は、お茶づくりにとどまらず、風景や文化、人とのつながりを未来へ引き継ぐ営みそのものだ。「ここを100年後も残る場所にしたい」。その静かな決意とともに、石井さんの歩みはこれからも続いていく。
ひとつぼ園主

茶園のテラス

いしい茶園のお茶

後熟・やどりき水源林のお茶(100g)
1,300円 (税込)
きれいなお茶に仕上がった春摘採の一番茶を、秋まで熟成させた「後熟茶」。新茶に比べコクが増し、香りはより深みがある風味豊かなお茶に。
本特集のスピンオフイベント!

第44回 若葉まつり
\GWは寄(やどりき)の魅力を見つけに行こう!/
日程:5月5日(月・祝)
時間:9:30~15:00 ※小雨決行
場所:寄(やどりき)自然休養村 管理センター広場 [足柄上郡松田町寄3415]
問い合わせ
一般社団法人 松田町観光協会
TEL:0465-85-3130
●川魚のつかみ取り
場所/中津川大寺橋の下
小学生以下対象・500円
※受付開始は10:00〜
●歌謡ショー
●ステージ・アトラクション
・吹奏楽演奏
・チアリーディング
・バンド演奏
・ダンス など
●ふるさと物産店
・地元野菜
・川魚や鹿肉の炭火焼
・特産品の販売
臨時駐車場:1台500円
適地適作が生んだ
丹沢大山茶というブランド

1971年生まれ。料理人として成功後、製茶メーカーとの出会いをきっかけに茶業界に転身。2006年に「鎌倉若宮大路茶来未」をオープンし、現在は藤沢市で緑茶やオリジナル茶の商品開発を行なう。世界緑茶コンテスト最高金賞を2度受賞し、独自の「十二微細分類製茶法」を開発。
料理人の経験が
お茶の未来を創造した
「株式会社 茶来未」は、神奈川県藤沢市を拠点に、日本茶の生産から販売までを手がける企業だ。代表の佐々木 健さんは、もともと料理人として成功を収めていたが、製茶メーカーの社長から「あなたの感性で作ったお茶を飲んでみたい」と声をかけられたことを機に茶師へ転身。茶畑を訪れ、茶葉の扱い方に驚いた彼は、「もっと茶葉の持ち味を引き出せる方法があるはずだ」と直感し、茶業界へ飛び込んだ。
茶葉の個性を引き出す
「十二微細分類製茶法」
佐々木さんが開発した「十二微細分類製茶法」は、茶葉の部位ごとの特性を大切にした独自の製法だ。茶葉には芽・葉・茎など異なる部位があり、それぞれ固有の風味を持つ。佐々木さんはこれらを12の部位に分類し、それぞれに最適な焙煎を施すことで、茶葉本来の味わいを引き出す。
この製法は食材の生かし方にも通じる点があり、元料理人ならではの柔軟な発想と言えそうだ。「茶葉の声を聞き、その個性を引き出すことが大切です」と佐々木さん。「十二微細分類製茶法」から生まれたお茶は、深みのある味わいと輝かしい実績を誇る。茶葉の品質のみならず、商品コンセプトやネーミング、パッケージデザイン、コストパフォーマンスなどの総合的な商品性を競う「世界緑茶コンテスト」で、過去に二度の最高金賞を受賞。国内外で高く評価されている。
日本茶業界の課題に向き合う
佐々木さんの挑戦は、茶作りにとどまらない。日本茶の認知度の低さ、パッケージの画一化、後継者不足などの課題に向き合い、茶葉で淹れる文化の衰退にも危機感を抱いている。
こうした問題を解決するため、「お茶の顔を明確にする」ことを重視。たとえば、産地や製法ごとの違いを明確に伝えるため、「深蒸茶 ぱちり」や「湘南ゴールド緑茶 ひだまり」などの個性的なネーミングを採用。フレーバーティーの開発や低温抽出・カフェラテ風アレンジなど、新たな飲み方も提案している。また、パッケージデザインを工夫し、「ジャケ買い」を促進する試みも行なっている。
産地の個性を生かした
「丹沢大山茶」
寄の茶畑では、「丹沢大山茶」というブランドを創出。ワイン業界の「シャトー」の概念を取り入れ、産地の個性を打ち出す戦略だ。松田町寄は標高が高く、昼夜の温度差が大きいため、茶葉がゆっくり成長し、豊かな風味が引き出される。「丹沢大山茶」は爽やかな香りと力強いうまみを備え、多くの愛好家に評価されている。
佐々木さんの挑戦は、日本茶の未来に向けた一歩として存在感を確立しつつある。伝統的な茶作りを大切にしながらも、時代に合わせた新しい価値を創造する彼の活動は、業界の枠を超えて広がり続けている。その情熱は、湘南をはじめとする各地に新しい茶文化を根付かせていくだろう。
茶師 佐々木 健さんが教える
おいしいお茶の淹れ方
[お茶:丹沢大山茶(金) 2杯分]
お湯の量
急須に入れるお湯の量は、飲む人数分の湯のみに注ぐ量を目安にするとよい。あらかじめ湯量を測っておくと安定する。
お湯の温度
ポットから湯冷ましに湯を取ると、約10℃下がる。さらに急須や湯のみに移し替えて適温まで冷ます。旨みを重視するなら低温、香りを楽しみたいなら高温で淹れる。

お茶の量
1人分は3~4gが基本。カレースプーン1杯で約4g、ティースプーンなら2杯分。少し多めに入れると、数煎にわたって楽しめる。

煎出時間
お茶の種類によって異なるが、煎茶なら2分ほどが目安。茶葉がしっかり開くまで蒸らし、水色を見て調整する。

注ぎ方
湯のみに静かに少しずつ注ぐ。複数杯あるときは回し注ぎで味を均等に。味が薄いと感じたら、茶葉の量で調整する。

最後の1滴
旨み成分をたっぷり含んだ、最後の一滴までしっかり注ぎ切る。煎を重ねるごとに湯の温度を上げると、茶葉のさまざまな表情が楽しめる。

茶来未(ちゃくみ)の伝統と
革新が融合した、
個性豊かな6種の銘茶を厳選。
丹沢大山茶(金) 80g 1,296円(税込)
世界緑茶コンテスト最高金賞受賞。松田町の自然が育む、爽やかな香りと深い旨みの特別な一杯。
深蒸茶 ぱちり 60g 1,296円(税込)
深蒸しならではの甘みとすっきりとした滋味。茶師厳選の「幼茎」が生む、香り高い掛川産煎茶。
湘南ゴールド緑茶 ひだまり 60g 1,296円(税込)
12年の歳月をかけた湘南ゴールドを丹沢大山茶とブレンド。香料不使用の爽やかな和の香りが堪能できる。
深蒸茶 あおあお 80g 907円(税込)
深い濃緑色が語る濃厚な旨み。茶来未独自の配合が生む、まろやかな味わいの深蒸し煎茶。
白折焙じ 焚き茶 70g 907円(税込)
新芽の茎を厳選した「白折」使用。弱火で丁寧に焙煎した、甘みと香ばしさ広がる極上のほうじ茶。
丹沢大山茶 水を守るお茶 100g 1,944円(税込)
神奈川の自社茶園で育まれた渾身の逸品。爽やかな香りと力強い旨みが調和する、茶来未の自信作。

茶屋が真面目に作った本格派「アイス」
各324円(税込)
茶師 佐々木 健のこだわりが詰まった、香料・着色料不使用の本格お茶アイス。甜菜糖のやさしい甘みが、お茶の香りと風味を引き立て、なめらかに広がるぜいたくな味わい。
茶来未(ちゃくみ)
藤沢市遠藤2526-25
TEL 0466-54-9205
営業時間:10:00〜17:00
駐車場:6台
定休日:火曜




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