【続編】
湘南ベルマーレをめぐる経営判断と説明責任
評議会・人事・記録が示す時間軸と、なお残る問い
文・湘南ジャーナル
前編から続く視点
前編では、湘南ベルマーレ・スポーツ評議会の取材を通じて、近年の人事・財務・説明をめぐる混乱について、評議会とRIZAPグループとの公式なやり取りを軸に整理した。
本稿では、その続編として、三つの公式取材で確認された事実に加え、継続取材の中で関係者から得られた情報や過去の評議会における議論内容を時系列に重ねる。
約6億円の貸付、役員人事の変更、株式移動―これらは突発的な出来事ではなく、2022年から続く構造的な問題が表面化したものだった。その時間軸を整理し、なお残る疑問を提示する。
Ⅰ. 三つの公式取材で確認された事実
① 湘南ベルマーレ 新社長・大多和亮介氏 就任会見(12月9日) 要約
湘南ベルマーレは新たに大多和亮介氏を代表取締役社長に迎え、その就任会見を行った。
会見冒頭で大多和氏は、今季のJ2降格についてサポーター、地域、関係者に対し謝罪し、「再建に全力で取り組む」と述べた。経営面については、クラブの財務状況が厳しい局面にあったことを認めたうえで、ベルマーレからRIZAPグループへの約6億円の資金貸付について、自身が財務担当として関与していたことを説明した。
貸付の理由について大多和氏は、当時クラブが債務超過に陥る可能性があり、資金繰りの判断として行われたものであること、また利息が付くことで「少しでもクラブの利益になるのであれば」という考えがあったと述べた。一方で、その利息額については具体的な数字を把握しておらず、のちの取材から、実際には数十万円規模であることが明らかになった。
また、自身の立場については、これまでRIZAPグループから業務委託という形で報酬を得ていたが、就任日以降はベルマーレの役員として報酬を受けることになると説明した。
「私はRIZAPの人間ではない」と述べつつも、これまでRIZAP側の業務委託を受けていた事実を認め、今後はベルマーレとRIZAPグループの間に立つ「橋渡し役」を担うと語った。
責任の所在については、「自分にも責任がある」「別の判断もあり得た」と述べた一方で、最終的な決定は取締役会の決議であったとの説明となった。
② 塩田徹氏・臨時評議会後 囲み取材 要約
臨時評議会終了後に、RIZAPグループ取締役であり新会長に就任した塩田徹氏が囲み取材に応じた。塩田氏は、今回の一連の混乱について
「地域の皆さまに不安を与えてしまったことは事実」と述べ、率直に謝意を示した
そのうえで、これまでのRIZAPグループとベルマーレとの関係について、
「市民クラブとしてのベルマーレ」と「企業グループの連結子会社としての扱い」との間に、大きな認識のズレがあったことを認めた。資金貸付についても言及し、利息が付くためクラブの利益になるという認識があったと説明したが、実際の利息額については、塩田氏も正確に把握していなかったことを明らかになった。今後については、同様の誤解を生むような対応は二度と行わないと明言し、今後は地域・自治体・商工会議所との関係を重視し、スタジアム構想にも関与していく姿勢を示した。
③ 評議会公式記者会見(12月10日)
評議会の会見で、貸付の合理性、スポンサー費の支払方法、株式過半数取得と取締役会への報告の有無などについてRIZAPグループへ公式に質問を行ったことを明かした。
- 約6億円の資金貸付の合理性と必要性について
これに対しRIZAP側は、本件は「連結グループ内での資金運用」という認識で行われたものであり、市民クラブとしての配慮が十分ではなかった点については「誤解があった」と説明した。貸付には利息が付いており、「ベルマーレにとっても利益になる」との説明がなされたが、その利息額は数十万円規模であることが会見の中で明らかになった。
→評議会側からは、この規模の利息を理由に貸付を行う合理性について疑問が呈された。
- ベルマーレから受け取っているコンサルティング費用・委託料について
RIZAPグループがベルマーレから受け取っているコンサルティング料、DX支援費、フィットネス事業の委託料などの合計が、直近で約9,800万円に上ることが示された。
一方で、RIZAPグループがベルマーレに支払っているスポンサー費は約2億円であり、差し引きすると、いわゆる「真水」での支援額は約1億200万円程度になる、という構造を確認しました。
→評議会からは、責任企業としての支援の在り方や費用対効果について、より丁寧な説明が必要ではないかとの指摘があった。
- スポンサー費の支払時期について
RIZAPグループのスポンサー費は、当該シーズンに対して11月末および12月末の分割支払いとなっていることが説明された。これについては、契約上および毎年の協議によるものであるとの回答があった。
→評議会側からは、中小企業スポンサーが年度当初に一括で支払っている現状との違いを踏まえ、キャッシュフローの観点から疑問が示された。
- ベルマーレの株式の過半数取得とガバナンスについて
RIZAPグループが50.002%の支配株主となった経緯についても質問が行われた。
この株式移動については、取締役会での正式な報告がなかった点が問題として指摘され、RIZAP側は詳細について「後日、文書で回答する」と説明した。
一方で、ベルマーレの取締役の中で、唯一大多和新社長はこの株式移動を把握していたことが明らかになり、ガバナンス上の在り方について評議会から疑問が呈された。
- 市民クラブとしての認識と今後について
RIZAP側は、ベルマーレが地域に支えられてきた市民クラブであるという認識が十分ではなかったことを認め、今後はその立ち位置を理解し、向き合っていく姿勢を示した。
また、今後の投資や増資についても検討していく意向が示されたが、具体的な規模や方法については明らかにされなかった。
評議会側は、「信用できるかどうかは、今後の行動で判断する」との立場を示し、透明性ある説明と継続的な対話を求めた。
- 評議会の結び
評議会は、今回の臨時評議会を対立の場ではなく、相互理解と安心のための対話の第一歩と位置づけた。当日の議事録については、今後公開される予定であることが示され、引き続き地域の声を取締役会や株主側に伝えていく姿勢が確認された。
【評議会で明らかになった金額のまとめ】
・RIZAPがベルマーレから受け取る費用:約9,800万円(コンサル料、DX支援、委託料等)
・RIZAPがベルマーレに支払うスポンサー費:約2億円
・実質的な支援額(真水):約1億200万円
・貸付による利息:数十万円規模
・RIZAPの内部留保:約250億円
2022年:水谷社長退任後の人事をめぐる動き
筆者自身、当時の水谷氏退任後の人事体制に疑問を感じたことがあったため、複数の関係者に意見や状況を確認していた経緯があった。今回の一連の取材を通じて、当時ベルマーレ元職員らから得られた、水谷氏の退任後の後任人事に関する情報が、点から線へとつながった。
2022年、水谷社長の退任後、ベルマーレ側では坂本紘司氏を中心とした後任人事案が検討されていた。一方で、RIZAP側からは人事に関する強い関与や意向があったことが、取材から確認できた。関係者によれば、RIZAP側から坂本氏の社長任命には反対が出たとも言われ、RIZAP側は大多和氏を社長として推薦するような背景もあったとのことである。要は、大多和氏はRIZAPグループ側からの人事である。
ただし、この時期の人事をめぐっては、非常に繊細かつ複雑な経緯があったとされる。
この経緯を踏まえると、今回2025年12月の人事変更は、2022年当時のRIZAPグループ側の動きの延長線上にあるとも見ることもでき、RIZAP側の意向が強く反映された人事であると言えるのではないか。これは筆者の疑問である。
2023年以降:評議会における継続的な懸念
評議会は、2023年以降「人事の透明性」「地域との関係性」「責任企業のあり方」といった論点を繰り返し記されていた。
今回の人事、貸付、株式移動をめぐる説明を、これら過去の動きと重ねてみると、単発の出来事として整理することは難しい。
Ⅲ. 見えてきた時間軸
これらを整理すると、次のような流れが見えてくる。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年 | 人事をめぐる議論が発生、RIZAP側から人事への関与の意向が示される。 |
| 2023年 | 評議会における継続的な懸念が記録される(透明性、地域との関係性) |
| 2024年 | 評議会で増資の必要性が議論される |
| 2025年6月 | 評議会と株主総会で、約6億円のサッカー収入計上に懸念と増資の必要性が提示される |
| 2025年10月 | クラブからRIZAPへの貸付が繰り返されていることが報告される |
| 2025年11月 | RIZAPが50.002%の支配株主となる(株主総会での単独過半数を確保)。大多和氏を除き、当時の取締役であった真壁氏、坂本氏、そして評議会も知らぬ状況であった。 |
| 2025年12月 | J2降格確定、役員人事の変更、一連の説明をめぐる混乱 |
これは突発的な出来事ではなく、積み重なった問題が表面化した結果と見ることもできる。
Ⅳ. なお残る疑問
本稿で整理した事実から、以下の点は依然として十分に説明されていない。
① 大多和氏の立場と関与の経緯
大多和氏は、いつ、どの段階で、どのような立場としてクラブに関与してきたのか。業務委託という形式であったとしても、その実態はどのようなものだったのか。
なぜこの疑問が重要か:
財務責任者として貸付判断に関与していた人物が、判断時点ではRIZAP側から報酬を得ていたという構造は、利益相反の観点から説明が必要である。
② 株式取得と取締役会への報告
株式の過半数取得に関する情報が、なぜ取締役会で共有されなかったのか。ガバナンス上、この点についての説明は必要である。
なぜこの疑問が重要か:
50.002%という支配株主の地位は、クラブの意思決定構造を根本的に変える。この重要情報が取締役会で共有されていなかったとすれば、経営の透明性に関わる問題である。
③ 増資と地域との関係
増資や投資は、地域とともに進められるものなのか。それとも、グループ内部の判断で進められるものなのか。その方向性が明確にされていない。
なぜこの疑問が重要か:
評議会が求める「責任企業を厚くする」増資と、RIZAP側が検討する増資が、同じ方向を向いているのか。この認識のズレは早期に解消される必要がある。
④ 過去の議論との連続性
2022年から続く人事をめぐる議論と、今回の一連の判断との間に、どのような関係があったのか。
なぜこの疑問が重要か:
2年前から懸念されていた問題が、なぜ今まで整理されなかったのか。その経緯を明らかにすることは、今後の信頼回復に不可欠である。
Ⅴ. 次なる取材へ
これらは断定や糾弾の対象ではない。
しかし、地域クラブとしての信頼を回復するためには、正面からの説明が必要である。
湘南ジャーナルは、次にRIZAPグループ本体への正式な取材を申し込む。
質問事項として想定しているのは、以下の点である。
- ベルマーレを企業グループの中でどのように位置づけているのか
- 市民クラブとしての公共性をどう理解し、どう向き合うのか
- 過去の評議会での議論をどう受け止め、今後どう対応するのか
- 増資やスタジアム建設など、地域との協働についての具体的な考え
これらを正式に問い、RIZAPグループとしての見解を直接伺う。
それが、市民クラブ・湘南ベルマーレの未来を考えるうえで、避けて通れない段階だと考える。
なお、本稿で扱った内容について、大多和氏およびRIZAPグループから補足や訂正があれば、誠実に対応し、掲載する用意がある。
最後に
湘南ベルマーレは、マネーゲームの道具ではなく、地域の誇りであり、子どもたちが夢を見る場・ヒーローであってほしい。
持株比率がコンマ数%違うだけで支配が決まる構造であればこそ、説明はより丁寧でなければならない。
増資、スタジアム建設、そして開かれたクラブ運営。
その未来を信じたいからこそ、私たちは問い続ける。
評議会の言葉を借りれば、「対立したいわけではない。ただ、安心したいだけだ」。
この問い直しは、いま、ようやく始まったばかりだ。
(株)湘南ジャーナル社 定成 幸代
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