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ニュース |2023.10.06

シン・スタ求め市に署名を提出
平塚に必要なスタジアムの姿とは

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 湘南ベルマーレが平塚市内に新たなスタジアムの建設を計画している問題で、市内の有志団体「『平塚をシン・スタジアムがある街に』協議会」が9月14日、今年2月から5月20日までに集めた50,292筆の署名を提出した。署名のうち約75%が県内、約36%が平塚市内からのものだった。

 協議会の代表を務める平塚青年会議所の柳田浩太理事長は「プロのサッカーチームのスタジアムがあることは平塚の個性であり、誇りでもある。知名度アップ・経済効果・スポーツ振興などさまざまな面において重要な存在」と述べ、「行政をはじめ多くの支援なしでは難しいのが現状」と行政の協力を訴えた。署名を受け取った今井高司副市長は「サポーター、関係者の熱い思いがあると真摯に受け止めさせてもらう」と語った。

 署名運動の発端となったスタジアム建設計画は、湘南ベルマーレが今年初頭に発表したもので、J1のライセンス基準を満たさない現在のホームスタジアム・レモンガススタジアム平塚(平塚競技場)に代わる、多機能複合型スタジアムの建設を目指すものだった。ベルマーレ側は今年5月、市に対して具体的な建設予定地や建設費、経済波及効果などをまとめた事前相談を提出。しかし市側は、候補地の1つが総合公園敷地内だったこと、142億円と算出した事業費のうち約半分の70億円の負担を市側に求める内容だったことなどからこれを一蹴。落合克宏市長は「ベルマーレは平塚の宝」としつつも「率直に言うと驚いた」「無理な提案を一方的に突きつけられた」と強い拒否反応を示していた。

地元経済界が
署名集めで得たもの

 署名は計画提案と並行して進められたため、当初は「スタジアム建設計画の決断と具体的な計画化を要望する」として集められた。しかしこの日、協議会は市に対して「新しいスタジアムの建設」は求めず、その前段である「話し合いの場」への行政の参加を求めた。その本心を改めて常盤卓嗣商工会議所会頭、鈴木成一委員長に聞いた。

クラブが平塚にあること

 「なにより大切なのは、ベルマーレの本拠地は平塚以外では考えられないということ」と常盤会頭。
 湘南ベルマーレはスタジアム構想を公にした際、半年を目処に話し合いがまとまらなければ、他市町へのホームスタジアム移転も辞さず、という姿勢を見せた。スタジアムのライセンス問題を前提にクラブとしての意気込みを示したはずが「スタジアムを建てなければ平塚から出て行く」とも取れる発言は、落合市長の強い拒否感にもつながった。

 常盤会頭は「具体の話をしていけば、いろいろな意見や課題があるのはわかる」と市の姿勢にも理解を示しつつも「まずはベルマーレを平塚に残さなければいけない。そのために基準を満たしたスタジアムが必要ならそこについて考えなければならない。維持管理や土地の問題含め、行政の協力なしではなしえない」とオール平塚で真剣に考える問題だと話す。

認知度への課題

 同時に「ベルマーレの価値をもっと底上げしていく役割を担いたい」と鈴木委員長。
 先日、ベルマーレが主催したVI(ヴィジュアルアイデンティティ)検討のワークショップにおいて、2020年の調査で平塚市民における湘南ベルマーレの認知度が約60%しかない、という話題がでた。
 今回の署名活動では商工会議所も大きな役割を担った。しかし市民にとってベルマーレがあってもなくてもいいものであったり、それ以前に存在すら知られないものだったりするならば、「平塚の宝」という落合市長の発言も、商工会議所の努力も空虚なものになってしまう。「今回の署名を通じて、認知度や市民にとっての価値の現状を再認識した。メジャースポーツのプロチームがあることが、まちにとってどれだけの価値で財産なのか、それをしっかりと伝えていきたい」と鈴木委員長は語る。

 今後、協議会は発展的に解消し、全体協議会の設置を目指す。
 常盤会頭は「行政、ベルマーレはもちろん、Jリーグ、そして我々のような民間組織や団体、そういった各方面が、『自分たちにはこういうスタジアムが必要だ』という考えを共有し、すり合わせをする新たな場を作っていきたい。繰り返すが大前提は『ベルマーレを平塚に残すために何をすべきか』ということ」と強調する。この新組織の設立を要望書としてまとめ、市に提出する予定だという。

スタジアム建設は
大きな財政負担

 一方で市側は、J1ライセンスを満たすスタジアムを人口約26万人の都市が抱えることは大きな負担であることを強調する。
 竣工から40年近くが経つレモンガススタジアム平塚が、近く大規模改修の時期に差し掛かることは市も認識している。また、競技場がJ1ライセンス基準を満たさず、ベルマーレが制裁を受け続けていることも認識している。

市のスタンスは「民間主導」

 平塚市の平野貴裕企画政策部長は「ベルマーレが平塚に残ってもらうために何をすべきか考える、その点では我々もみなさんと同じ」と市の姿勢を説明しつつも「市は『ベルマーレが主体となって、民間が主導するのであればできる限りの支援をする』というスタンス」と強調する。
 「仮に新スタジアムを建てるとして、場所が総合公園内というのは市としては考えられない。では他に土地を求めたときに、計画の142億には土地の値段が含まれていない。土地代を含めれば200億は超えるでしょう。今の計画には、そのお金の出どころと土地の確保が絶対的に足りていない」という。

 「負担を求められた70億という金額は人口25万8,000人の平塚市にとっては相当な額で、市民サービスの低下を免れない。経済波及効果などの試算もベルマーレから出ているが、計画としては未成熟でそれを論拠に70億の拠出はできない」という。公共施設建造には国や県の各種補助金もあるのだが「神奈川は6つもプロサッカークラブがある。県が特定の1クラブのために特別な支援をしてくれるかというと……」見込みは薄いようだ。

厳しいJ1ライセンスの条件

 なにより「J1ライセンス基準のハードルは平塚市にとっては相当に高い」と平野部長は指摘する。
 「責任企業が離れたクラブが、市民クラブとして再生しホームタウンを拡大することで、いわゆる大企業や大都市の支援を受けられるクラブに勝負を挑んでいることは誇らしい」としつつも「クラブのホームタウンは9市11町でも、ホームスタジアムの維持管理費用は100%平塚市が負担している。もちろん、現スタジアムは市の所有なので仕方ないんですが……」という。

 ベルマーレのホームタウン人口は200万を超える。しかし実際に“ホームスタジアムを支えている”のは約26万の平塚市民の税金というわけだ。このあたりは9月議会で諸伏清児議員の質問に対し平野部長が答えた「本質的にはJリーグのスタジアムの基準を、地方の都市とチームがどういうふうに解決していくかというところ」という発言からも汲み取れる。

 スタジアムの改修ではどうか。
 ライセンス充足に向けたポイントは、屋根の客席カバー率だ。しかし現在「新設及び大規模改修を行うスタジアムについては、原則として屋根はすべての観客席を覆うこと」が求められている。すると改修にすら、現状負担を求められている70億円を超える金額がかかる可能性がある。
 数十億規模の財政負担ができないのは前述の通り。つまりJ1ライセンス充足を前提としたスタジアムづくりは、八方塞がりなのだ。

国立に5万超のサポーター
平塚でその熱気は生み出せるか

 そんななか、湘南ベルマーレは9月24日に国立競技場で川崎フロンターレを迎えてのホームゲームを開催した。今年、J1リーグで国立開催されるゲームは6試合。ホームクラブとして開催するのはFC東京、鹿島アントラーズ、名古屋グランパス、ヴィッセル神戸、そして湘南ベルマーレの5チームだ。
 同じJ1で戦うクラブとは言え、FC東京、鹿島、神戸、名古屋に比べれば、正直なところ湘南ベルマーレは経営規模で見劣りする。しかし湘南のフロントはこの日に向けて、相当なエネルギーを注ぎ込んできた。復刻ユニフォームや無料招待券などの施策を数多く実施し、レゲエミュージシャン・湘南乃風のミニライブや、人気アニメ『ブルーロック』とのコラボを行なうなど試合外のイベントにも力をいれた。

 結果、この日の入場者数は54,243人。クラブ史上最多を更新した。

平塚にだってポテンシャルはある

 国立競技場はサッカーにとっては聖地だ。小さい子どもを抱いたファミリーも、声を張り上げチームを応援する若者も、寄り添い歩く老夫婦も、昔からのサポーターも、この日初めてベルマーレを見るであろう人も、それぞれに夢の「国立開催」に期するものがあった。
 この日の試合が「行きたいと思うスタジアム」で行なわれたのは間違いない。当然ながら国立は設備的な充実度も高い。当然のようにバリアフリー化が行き届いており、ベビーカー置き場・ベビーケアルームなどは各所にある。ホスピタリティの高さからくる安心感は相当なもの。最寄り駅の1つ、千駄ヶ谷駅方面からスタジアムに至る導線も歩行者デッキがありバリアフリー化されているほどだ。
 なにより、ここには歴史に裏打ちされたスタジアムが醸し出す空気・エネルギーがある。数々の施策も相まって、それに呼応するようにサポーターのボルテージも上がっていった。スタジアムがつくる未来の可能性の一端は、この日の国立開催が見せてくれた。

 眞壁 潔会長は試合後、この日の出来を「85点ぐらいはある」と評した(試合結果は除外してもらったが)。「来場者の半分は川崎のサポーターかもしれないが、少なくとも2万7,000人あまりのお客さまが湘南のために足を運んでくれた。受け入れるスタジアムがあれば、平塚にだってそのポテンシャルはある」と前を向いた。
 この日は、落合克宏市長も国立に足を運んだという。市長は約5万5,000人の大観衆に何を思っただろうか。

 それぞれの立場にそれぞれの主張はあるが、これだけの大規模建造物の計画では、まずはその主張をテーブルに広げるべきではないだろうか。「ああしたいこうしたい」「あれがダメこれがダメ」とキャッチボールをしているだけでは話は遅々として進まない。結果として「スタジアムを平塚に建てることはできない」でも仕方ない。まずは共通のテーブルに付くことが、真に「市民のためのスタジアム」実現の第一歩になるはずだ。

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