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|2012.08.17
究極の美と癒しを求めて小田原鋳物研究所の風鈴
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鳴らした瞬間、まるで時間が止まったかの様に響き渡る透き通った高音。辺りを包むその音はさながら音楽の様に空間を支配し、世界から他の音を消した。どこまでも延びていく余韻から開放されるころ、ようやくさっきまでの蝉時雨が耳に届く。音の正体は相模の国、下曽我で生まれた「さはり風鈴」だ。「さはり」とは砂張と書かれる銅と錫と鉛の合金のこと。金属が割れるギリギリの配合がこの風鈴の音色を支えている。風鈴を手がけるのは小田原鋳物研究所の上島国澄さん。彼の風鈴への想いとは。
![120817_kiji_c2](https://www.shonan-journal.com/test03/wp-content/uploads/2012/08/120817_kiji_c21.jpg)
美術品
砂張を用いた風鈴。その見た目は金属が複雑に混じり合って得も言われぬ趣がある。まるで太古よりタイムスリップしてきたかの様な威厳と少し触れるだけで崩れてしまいそうな儚さが同居した不思議な姿だ。磨き上げることによってその姿は輝きを増す。表面は周囲の光を反射し、金属の光沢の奥から赤や緑の光が顔をのぞかせる。主張しすぎず、しかし確固たる砂張の佇まいは雅そのものだ。
癒しの音
砂張とは元々「響銅」という「響き」が特徴の金属。鋳鉄や真鍮の風鈴に比べ響き=余韻は大幅に長い。さらに特徴的なのは「ゆらぎ」の周期。ダブルピークと言われる音の波形の頂点が微妙にずれることによって、ゆったりと大きなゆらぎが発生する。他の素材でもゆらぎは発生するが、砂張は圧倒的にその周期が長く、押しては返す波の様に耳に届く。このゆらぎが侘び寂びを、そして癒しを生む。砂張材が融液から常温になる間に起きる金属変化によって風鈴ごとにその音色は変わり、あたかもヴァイオリンやクラシックギターの様な唯一無二の音を奏でる。
湘南ひらつか七夕まつりで販売された、平塚市立横内小学校の生徒が七夕への想いを描いた「七夕風鈴」も砂張製。織姫と彦星が一年ぶりに出会ったその時、夜空には砂張の音色が響いていた。
上島さんの手がける風鈴は、その世界で既に高い評価を得るもその飽くなき探究心は尽きることを知らない。風鈴が人の決めたその枠を超え、風鈴でなくなる時―「究極の美と癒し」への旅路はまだ道半ばだ。
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