かっこつけずに、素材のままで焼芋家 チョウハシ トオルさん
驚くほど甘く、しっとりと、柔らかい。だが砂糖やマーガリンなど添加物は一切使っていない。完成するまでになされることは「素材そのままを、焼く」という1工程のみ。これは焼き芋。ただ、一般的に広く想起されるであろうほくほくとした焼き芋とは全く異なる食感を持つ。それは、焼芋家という肩書きで活動するチョウハシトオルさん(33)の「作品」、『つぼ焼きいも』だ。
冬の到来を感じさせる焼き芋。家庭でも手軽に蒸かすことができ、石焼き芋の軽トラックを見かければ簡単に手に入れられる。だが「つぼ焼きいも」は、なかなかお目にかかることができない。以前はどこにでもある一般的な販売形態だったというが、近年では珍しいものとなった。理由は明解。手間がかかるから、だ。
手間
愛知県常滑産の大きなつぼが2口。練炭を入れ、温めること2時間。均等に焼くためこまめに回転させ1時間かけてじっくり蒸し焼きにする。1日3時間の営業で、最大でも75本程度しか作れないという。普段は大磯町内で週2回、週末はイベントに呼ばれることもあるが、すぐ売り切れる。毎月の「大磯市」では整理券を配るほど。 販売量の少なさ。さらに輪をかけて販売機会も少なく、「幻の地元スイーツ」ともいえる存在だ。 効率を選ばず、利益を求めず、大量生産はしない。それでも手間を惜しまずにかけるのは、なぜか―。「活動自体がデザインだから」とチョウハシさんは言う。
デザイン
多摩美術大学を卒業し、デザイナーとして都内で働いていたチョウハシさん。生まれ育った地元で働きたい、と帰郷するも、デザインの仕事は多いものではない。知人も少ない。そんな中、「つぼ焼きいも」の存在を知り、興味を持った。そして、自分自身を多くの人に知ってもらおうというセルフプロデュースの意味も込め、始めることに決めた。「『あるものを人に、どう伝えるか』、というのも、デザインの役割のひとつだと思います。素朴で地味な焼き芋も、自分も、伝え方によっては人に受け入れられると思ったんです。偉そうで申し訳ないんですが」と謙虚に語る。
作品
「始めた当時はオシャレっぽい、飾った感じにすることで、差別化を図ろうと思ってやっていました。ですが最近はそんな気はなく、むしろ当時のは『イケてない』デザインでしたね」と振り返る。「単なる自分を説明するためのコミュニケーションツールだったんです」 始めて4年。気が付けば、どっぷりとはまっていた。「素材本来が持つ、その美味しさをいかに伝えられるか」。今では本業のデザイナーよりも、ウェイトを置くようになり、肩書きも「焼芋家」へと変更した。「下手にかっこよく見せる必要はなく、シンプルに、最大限の魅力を伝えるか。それが本当のデザインの役割だと思います。もちろん美味しいのが大前提ですが」
素材、その魅力を最大限に引き出すことを追求する焼芋家は、自らが発する言葉も飾ることなく、素朴に語る。そして最後にひとつだけ付け加える。「その先に生まれる、人の『驚き』や『喜び』、『幸せ』。それこそが僕の作品だと思っています」
問い合わせ チョウハシさん
☎090-5443-2221
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