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源平とその周辺 |2013.07.05

源平とその周辺:第56回 大将軍、義経

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 奥州から義経に従ってきた継信が射られた。「思い残すことがあれば言ってくれ」と聞く義経に、継信は苦しそうに答える。「義経様が世に出てお栄えになるのを見ることなく死ぬのが心残りに思われます。奥州に残してきた老母のことも気がかりです。しかし『源平合戦のときに屋島で佐藤継信は主君の代わりに討たれた』と後々まで語られるのであれば、光栄です」。衰弱していく継信を前にして、さめざめと泣く義経。貴い僧を尋ね出させて「負傷して息を引き取る勇者のために、経を書いて冥福を祈ってもらいたい」と頼んだ。その僧に贈ったのが、一の谷の鵯越も共に駆けおりた義経秘蔵の名馬。継信に対する心からの弔いに、義経の家臣たちは、「この主君のために命を落とすことは少しも惜しくない」と強く心を動かされた。
さて、平家に背く意思のある者たちも義経のもとに参集して軍勢が増えた。日が暮れるため勝負は明日に持ち越そうと源氏軍が退こうとしたそのとき、沖の方から立派に飾り立てた小舟が一艘、渚に近づいてきた。舟から優美な女性が出てきて紅の地に金の日輪が描いてある扇を立てて、陸の源氏に向かって手招きをする。義経は後藤実基に「あれはどういうことか」と聞いた。「射よ、ということでございましょう。大将軍(義経)が進み出て美人を御覧になっているところを射落とそうとする謀略でしょうか。すぐに扇を射させなさるのがよろしいかと思います」。後藤が推挙したのは、下野国(栃木県)の那須与一。「小柄ではありますが腕は確かでございます。その証拠に、空を飛ぶ鳥を三度のうち二度は必ずしとめます」。まだ20歳になるかならぬほどの与一が呼ばれた。義経の命令を受けた与一は辞退した。なぜなら射落とせるかどうか分からないし、射損じたならば長きにわたって源氏の恥となるからだ。だから言上した。「必ず射落とせる他の誰かに仰せになるのがよろしいかと存じます」。義経は憤慨した。「自分の命令に異議を唱える者は、鎌倉へ帰ってよい。多くのなかから選びだされたことをこの上ない幸運だと喜ばぬ武者などいったい何の役に立つのか」。義経に命じられた以上、断れるはずもなかった。
大田原市のマスコットキャラクター「与一くん」 画像提供=大田原市
著者:新村 衣里子
■プロフィール
お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。元平塚市市民アナウンサー。平成16年ふるさと歴史シンポジウム「虎女と曽我兄弟」でコーディネーターをつとめる。『大磯町史11別編ダイジェスト版おおいその歴史』では中世の一部を担当。成蹊大学非常勤講師。

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